第11話ぼうけんの話
2ぷん
歩かなく なった 足
光の町では、道を きく必要が ありませんでした。イチに 行き先を 言えば、「つぎの角を 右」と 出ます。そのとおりに 曲がれば、つきます。
三日 たちました。二人は、町じゅうを 歩いたはずです。
四日めの朝、海から きりが 来ました。柱の光が とどかなくなり、人形たちが しずかになりました。
「いまは、道が 見えません」
「見えません」
「わかりません」
ソラが、あたりを 見まわしました。白い中に、灰色のかべが 立っているだけです。
「リン、宿は どっち?」
リンは、口を ひらきました。それから、ゆっくり とじました。
「……三日 歩いて、道を 一つも おぼえていなかったわ」
3日間も歩き回った町なのに、なぜ霧が出たとたんに一歩も進めなくなってしまったのだろう?
ソラは、鼻を 上げました。
「パンのにおい。朝だけ する店、宿のとなりだった」
それから、足もとを 見ました。
「あと、われたタイル。みっつ ならんでるところ、宿の前」
ソラは、道を おぼえていたわけでは ありません。イチの声を 聞きながらも、目と 鼻が かってに 何かを 拾っていたのです。リンは、そのあいだ、人形の答えだけを 見ていました。
二人は、においを たどって 歩きました。われたタイルは、三十分 かかって 見つかりました。宿は、そのすぐ上に ありました。
つぎの朝、きりは 晴れていました。リンは、イチに 聞かずに 同じ道を 歩いて、目じるしを 三つ 決めました。青い戸、かたむいた柱、さびた 手すり。
「聞かないほうが いいってこと?」
「ちがうと思う」
リンは、ノートに こう書きました。
「聞いてもいい。ただし、自分の中に 一つだけ のこす。」
道案内や検索など、すべてをAIに任せきりにすると、自分の中に何も残らなくなってしまいます。AIを頼りにするときも「自分の中に一つだけ残す」ことを意識して、自分の目や耳、頭で感じた手がかりを大切にしましょう。
この話に名前をつけるなら 観測・サンプリング・自主検証星間航海士の手引き 24
やってみて いつもスマホの地図や検索、AIに頼っていることを1つ見つける(通学路、簡単な計算、漢字など)。機械を見ずに、自分の記憶と頭だけで最後までやってみよう。
詳細解説
任せきりによる技能の空洞化を扱う話です。3日間、道案内に従って歩いた2人は、きりで案内が止まった朝に帰り道を失います。使うか使わないかではなく、使い方の形を問う回です。
くわしく読む
背景と目的
目標は、AIの利用を「自分の中に何が残るか」で評価する視点を持つことです。同じ作業をAIに任せても、結果だけ受け取る使い方と、手がかりを1つ自分で拾う使い方では、道具が止まった後に残るものが変わります。
到達点は「聞いてもいい。ただし、自分の中に1つだけのこす」です。
組み立ての工夫
2人に差をつけました。リンはAIの答えだけを見ており、ソラはにおいと割れたタイルを拾っています。同じ道を同じ道具で歩いても差が出ることを、人物の対比で示すためです。ソラも意図して覚えたわけではない、という書き方にしてあります。
解決を「きりが晴れるまで待つ」にしなかったのは、受動的な回復では何も学習されないからです。翌朝リンが同じ道を自力で歩き直し、目じるしを3つ決める場面を最後に置いています。
補足と注意点
「AIを使うと覚えられなくなる」という一般化は、本文の主張ではありません。本文が対比しているのは使用の有無ではなく、答えだけ受け取る使い方と、手がかりを残す使い方です。後者であれば、頻度は問題になりません。