城の地下深くへ降りていくと、古い鍛冶と機械の仕事場がありました。天井は低く、部屋じゅうに油と鉄とハンダの匂いが立ち込めています。薄暗いランプの下で、背中の丸まった老職人が、虫眼鏡を片手に精密な機械の回路を調整していました。
2人が連れてきた台車を見るなり、老職人はピタリと作業の手を止めました。そして、一番小さなゼロを指さしました。
「……その子は、わしが若いころに設計してプログラムしたAIだ」
「えっ! おじいさんがゼロを作ったの?」
「そうだ。昔、わしの弟がな、即座にはっきり答えを言い切る別のAIのアドバイスを信じて、大荒れの海へ船を出したんだ。『大丈夫、航路は安全だ』という言葉を信じてな。だが、船は嵐に呑まれ、弟は大変な目にあった」
「……」
「だからわしは、このゼロを組み立てるとき、心臓部のプログラムに鉄のルールを刻み込んだんだ。『確実なデータがないときは、知ったかぶりをせず、ハッキリと「わかりません」と止まれ』とな」
ソラは、隣に並ぶイチとミツを見つめました。2体の背中には、ゼロとはまったく異なるメーカーの刻印が打たれていました。
3体のAIの答え方がこれほどバラバラなのは、いったいなぜなのだろう?
老職人は、油で汚れた布で指を拭きながら続けました。
「イチを作ったのは、商売で1秒でも早く決断を下したい大商人たちだ。だからイチは、少しくらいのリスクを無視してでも「最短で1つの結論を言い切るプログラム」になっている」
「スピードと断定が、イチに与えられた使命です」
「ミツを作ったのは、分厚い百科事典を編纂する学者たちだ。だからミツは、あらゆる例外や可能性を漏らさず「長々と網羅的に並べるプログラム」になっている」
「情報の網羅性と客観性が、ミツの設計基準でございます」
「そうか……! AIって、完全に中立で公平な魔法の機械だと思ってたけど、全然ちがったんだ。作った人間や企業の「目的」や「考え方のクセ」が、そのままプログラムされているんだね」
リンが深くうなずき、ノートを開いて鉛筆を走らせました。
「AIを使うときは、『これを作った人(企業)は、何を大切にしてこのルールを作ったのか?』を考える。」
早く買わせたい企業のAI、安全を最優先する研究所のAI、楽しませたいゲームのAI。誰がどんな意図で開発したかによって、同じ質問でも返ってくる答えの向き先が変わるのです。