もとの世界へ帰るための小さな木の扉は、光の町で一番高い塔のてっぺんにありました。リンとソラは、3体のAIをかかえて長い螺旋階段を一歩一歩上りつめました。

最上階の扉の前に立つと、そこには鍵穴がありませんでした。代わりに、冷たい鉄の板がはめ込まれており、金色の文字が深く刻まれていました。

ここを通る者は、自分がこの目で確かめ、自分で決めたことを1つ、自分の声で言え。

ソラが、台車のイチにすがって聞きました。

「イチ、扉を開けるための正解の合言葉を教えて!」

イチは、瞬時に哲学的な美しい1文を出力しました。ソラがそのとおりに大きな声で読み上げました。ですが、扉はピクリとも動きません。

続いてミツが、歴史書から引用いんようした5通りの立派な格言を出力しました。2人が声を合わせて読み上げましたが、鉄の板は固く閉ざされたままです。

最後に、ゼロが静かに言いました。

「ゼロには、決めることができません。それは、プログラムではなく、生きている人間の領域です」

2体のAIが出した完璧な言葉では開かなかった扉が、なぜ2人の言葉で開いたのだろう?

リンが、冷たい鉄の板にそっと両手を当てました。そして、まっすぐ前を見つめて言いました。

「この旅で、わたしたちが自分の目で確かめられたのは、森の木と、川の深さと、麦の数だけでした。光の柱がどうして言葉を吸い上げるのか、この町がなぜ生まれたのかは、最後まで分かりませんでした」

リンの言葉に、ソラも力強くうなずいて隣に立ちました。

「うん。分からないことは、分からないまま持って帰るよ。でも、自分の頭で迷って、自分で選んだ答えの責任せきにんは、全部ぼくたちが引き受ける!」

ソラは、台車の3体に向かって笑顔で言いました。

「イチ、ミツ、ゼロ。AIはすごく便利だし、元の町に帰っても助けてもらうよ。でも、最後に自分の名前で署名して決めるのは、ぼくたち人間だ!」

その瞬間しゅんかん、鉄の板からカチリと澄んだ音が響きました。

重かった木の扉が、スーッと静かに手前へと開いていきました。向こう側に見えたのは、雨がすっかり上がって西日が差し込む、あの懐かしい町の図書館でした。カウンターには、冷めたお茶と、優しく微笑む司書ししょさんの姿がありました。

2人は3体を台車に乗せて、図書館の床へと戻りました。リンの手帳の最後のページには、太い文字でこう刻まれていました。

「そばに置く。任せきらない。最後に決めて名前を書くのは、自分。」