川の橋が流されて通れないことを、下流の村人たちはまだ誰も知りません。このままでは、朝市へ向かう荷車が次々と落ちて大事故になってしまいます。城の執務室で、リンとソラは村の分岐点に立てる「注意の看板」を作ることになりました。

大きな木の板とペンキを前に、ソラがミツに向かって気楽にプロンプト(指示文)を出しました。

「ミツ、村のみんなが読む看板の文章、なんかいい感じに書いて!」

ミツは、わずか数秒で美しく整った長い文章をスラスラと出力しました。

このたび、地域の交通網にかかる橋梁につきまして、予期せぬ事態により通行が困難な状態となっております。利用者の皆様には多大なるご不便をおかけいたしますが、何卒ご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

「うわっ、すごい! めっちゃ大人っぽくて立派な文章じゃん! これをそのまま看板にコピペ(丸写し)して立てようよ!」

ソラが刷毛を手に取ったとき、リンが紙を取り上げて首をかしげました。

「ソラ、ちょっと待って。この看板を急いでいる村の人が読んで、明日どうすればいいか分かる?」

ミツの書いた文章は丁寧で完璧に見えるのに、なぜ看板として役に立たないのだろう?

ソラは、もう一度じっくりと紙の文字を目で追いました。

「あ……! どの橋が壊れたのかも、いつから通れないのかも、どこを通って迂回すればいいのかも、肝心な情報じょうほうが何1つ書いてない!」

「そう。『いい感じに書いて』って雑に頼むとね、AIはネット上の挨拶文のデータをツギハギして、当たり障りのない【それっぽいだけの文章】しか出せないのよ」

さらにリンは、真剣な顔でソラを見つめました。

「それにね、AIが出した文章をそのままコピペして自分の名前で出したら、もし間違ったときに誰が責任せきにんを取るの? それって、誰の言葉なの?」

ソラはハッとしました。学校の作文やポスターでも、AIに丸投げしてそのまま提出してはいけない理由が、すとんと胸に落ちました。道具に使われるのではなく、自分が責任を持って道具を動かさなければならないのです。

ソラは、具体的な条件を箇条書きにしてミツにプロンプトを打ち直しました。

「【対象】急いでいる村人。
【場所】南の丸木橋。
【状況】橋が落ちて通行止め。
【迂回路】上流へ500メートル先の浅瀬なら、歩いて渡れる。
遠くからでも一目で分かる、短くてハッキリした言葉にして!」

ミツが打ち直した文章は、驚くほど力強く分かりやすいものでした。

【警告】南の木の橋、通行止め!
2年前の水害で流され、渡れません。
上流へ500メートル進むと、歩いて渡れる浅瀬があります。

ソラは笑顔になり、看板の一番下に、自分の手でペンキを走らせて最後の1行を書き加えました。

「足元が滑るから、気をつけて渡ってね! ——リン、ソラより」

「よし、これで完成だ!」と2人は看板を掲げました。指示を具体的に工夫し、最後の1行を自分の言葉で責任を持つことで、AIの出力は初めて血の通った役に立つ道具になるのです。