光の町の大通りに入る際、町の案内人から薄い銀色のメガネを1つずつ手渡されました。かけると、視界のあちこちにカラフルな光の文字や矢印が浮かび上がってきます。
広々とした大通りを並んで歩きながら、リンが楽しそうに周囲を見回しました。
「この町、本屋さんが本当に多いね。専門書の店に、古書店に、絵本屋さん……もう6軒目よ」
ソラが、怪訝そうに足を止めました。
「えっ? 本屋なんて1軒も見てないよ。さっきから、香ばしいカレーパンやスイーツの甘いにおいがするお店ばっかり並んでるよ!」
2人は、同じ道を、肩が触れ合うほどすぐ隣に並んで歩いていました。
「ソラ、ふざけてるの? ほら、右側のあのお店、壁一面に古い歴史書が並んでいるじゃない」
「ふざけてないよ! ほら、右側のあのお店、焼きたてのチーズカレーパンが山積みになってるよ!」
2人が指さした先は、まったく同じ建物でした。
隣り合って同じ道を歩いているのに、なぜ2人の見えている景色がまったく違っていたのだろう?
リンが、不思議に思ってメガネを少しずらし、肉眼でその建物を見つめました。ソラも同じようにメガネを外しました。
そこにあったのは、本屋でもパン屋でもなく、看板も何もない、ただの灰色のコンクリートの空き店舗でした。
「……メガネの中のAIよ。わたしたちが普段検索している履歴や、好きなもののデータを分析して、人それぞれに合わせた「おすすめ(レコメンド)」の幻を重ねて見せていたのね」
さらにソラが目を見張りました。メガネをかけ直すと、パン屋の店先でニコニコと手を振っている店員さんの姿が見えます。ですがメガネを外すと、誰も立っていません。
「看板だけじゃない……! 店員さんの笑顔も、AIがリアルタイムに作り出した本物そっくりのフェイク映像(偽の動画)だったんだ……!」
ソラは息を呑みました。YouTubeやSNSでおすすめ動画ばかり見ていると、いつの間にか自分が見たい情報だけで周りが埋め尽くされ、他の世界が見えなくなってしまう「フィルターバブル」の罠が、この町全体に仕掛けられていたのです。
「自分好みの世界はすごく快適だけど、自分が好きなものしか見えなくなって、世界がどんどん狭くなっちゃうんだね」
リンは、メガネを外してポケットにしまい、手帳を開きました。
「そうね。たまにはメガネ(おすすめフィルター)を外して、生身の目で世界を見比べないと、フェイクや作られた幻に気づけなくなるわ」
2人はメガネを外し、肉眼で本物の町の姿を確かめながら歩き始めました。