雨の土曜日でした。リンが図書館のいちばんおくの棚を、はしっこだけ ぐいと引きました。重いはずの棚が すべるように動いて、うしろから 小さな木の戸が あらわれました。
戸のまん中に、かぎあなが1つ。のぞきこむと、向こうには青々とした草原が広がっていました。外は、冷たい雨がふっているはずです。
「……リン、草が生えてるよ。晴れてる」
カウンターにいた司書さんは、ちっともおどろきませんでした。あたたかいお茶を置いて、静かに言いました。
「扉が開いたのね。向こうへ行ってもいいけれど、ひとつだけ約束して」
「なに?」
「この子たちをつれていくなら、3体ぜんぶをつれていくこと」
司書さんが指さしたのは、カウンターの上に置かれた3つの機械でした。3体には、それぞれ イチ、ミツ、ゼロ という名前がついています。町の人たちは昔から知っています。これらは、遠い昔に作られた自律型のAI(人工知能)でした。
「1体で十分だよ。一番アタマがよくて、正解を当てるやつだけでいい」
司書さんは、ゆっくりと首を横にふりました。
司書さんは、どうして3体ぜんぶのAIをつれていけと言ったのだろう?
「3つの答えがそろったら安心、ではないのよ。3つのAIの答えが食い違ったときにこそ、どこを人間が調べればいいかが分かるの」
2人は、3体を小さな台車にのせて運びました。扉の前で、3体のAIが じゅんばんに自己紹介を始めました。
「イチは、最短の計算で、答えをいつも1つ言い切ります」
「ミツは、大量のデータを検索して、可能性をいくつも並べます」
「ゼロは、確実なデータがないときは、答えを出しません」
ソラが、思わず笑いました。
「プログラムの特徴がそのまんま名前になってるんだね。イチと、ミツと、ゼロだ」
いちばん小さなゼロが、静かな声で言葉をたしました。
「ゼロたちは、この扉の向こうの世界を知りません。学習データが入っていないからです」
「データがないんだ」
「はい。知りません」
リンは、ポケットから取り出したノートの1行目に、鉛筆でこう書きとめました。
「『知らない』と正直に言えるAIを、まず味方にする。」
戸は、大人がかがんで やっと通れる高さでした。2人と3体のAIは、草原へと踏み出しました。空には、あたたかい風が吹いていました。