草原の道は、すぐに深い森へと入っていきました。大木が高くそびえ立ち、枝葉がからみ合って空をふさいでいます。

「イチ、川をわたって城へ行く近道を検索けんさくして」

イチは、1秒も待たせませんでした。

「まっすぐ進んで、2つめの角を右へ。木造の橋をわたれば、対岸の城下町です」

2人は言われたとおりに歩きました。目印の角を2つ曲がると、目の前に川があらわれました。

ですが、そこに橋はありませんでした。

あるのは、激しい水流の中に ななめに突き刺さった、真っ黒な木の柱が2本だけです。

「イチ、橋なんて どこにもないよ!」

「イチの地図データには、確かに橋が存在します」

「でも、目の前には柱しかないんだって!」

「地図データには、存在します」

ミツが、橋が崩壊した可能性をデータベースから検索し、早口で並べ始めました。台風、増水、老朽化、シロアリ被害ひがい。ミツが6つめの原因を読み上げようとしたとき、ゼロが静かにイチにたずねました。

橋が落ちているのに、なぜイチは自信満々に「橋がある」と言い切ったのだろう?

「その地図データは、いつ更新こうしん(アップデート)されたものですか」

イチの電子音が、一瞬いっしゅんだけ止まりました。

「……イチが作られ、最後の学習データを読み込んだ日までの記録です」

川べりを見ると、麦わら帽子のおじいさんが つりをしていました。リンが駆け寄って聞くと、おじいさんは糸を見つめたまま答えました。

「橋なら、2年前の冬の大水で流されちまったよ。上流へ少し歩けば、歩いて渡れる浅瀬がある」

2人はお礼を言って、川沿いを上流へと歩きました。おじいさんの言うとおり、水は足首の深さしかありませんでした。

じゃぶじゃぶと浅瀬を渡りながら、ソラが台車のイチを見ました。

「イチは、ぼくたちをだまそうとしてウソをついたわけじゃなかったんだね」

「そうね。持っているデータが古かっただけよ」

「悪気があってウソをつくのと、データが古いせいで間違えるのは、ぜんぜん違うんだ」

リンは、濡れた足のまま手帳を開き、鉛筆を走らせました。

「AIに答えを聞いたら、『そのデータは、いつの情報じょうほう?』と確かめる。」

それから2人は、AIに道をたずねた後、近くにいる人間にも必ず確かめるようになりました。AIがもっとも苦手なのは、今この瞬間しゅんかんに目の前で起きている『リアルタイムの変化』だからです。