森を抜けると、空高くそびえ立つ巨大な石の門が立ちはだかりました。門の横のイスには、重い鎧をまとった門番が1人、腕を組んで座っています。
「城下町へ通りたければ、知識の試練に答えよ。この森で、もっとも樹齢の古い木は何という木か」
ソラが、台車の3体に向き直りました。今度は自分の思い込みを入れず、きわめて中立なプロンプトでたずねました。
「この森の中で、もっとも樹齢が古い木はどれですか」
「北の大通りにある『かしの木』です」
「北のかしの木でございます。ほかの記録データは見当たりません」
「北のかしの木だと推定されます」
3体のAIの答えが、一字一句たがわずに完全にそろいました。これまで意見が割れてばかりだった3体の一致に、ソラは思わずガッツポーズを作りました。
「答えは、北のかしの木です!」
しかし、門番はピクリとも動かず、イスから立ち上がろうともしませんでした。
「3つの口が同じことを言っても、元が1つなら、ただの一票だ」
3体のAIの答えが完全に一致したのに、門番はなぜ首を横に振ったのだろう?
リンが眉をひそめ、3体に質問を投げかけました。
「イチ、ミツ、ゼロ。あなたたち、その知識をどこから学習(ダウンロード)したの?」
3体が、そろってまったく同じ文献のタイトルを読み上げました。
「王立図書館編纂『森の樹木記録』のアーカイブデータです」
「ああっ……! 3つのAIがそれぞれ自分で確かめたんじゃなくて、元にしているデータ(情報源)が同じ1冊の本だったんだ!」
3人が同じ噂話を話していても、元の発信者が1人なら「1つの話」にすぎないのと同じです。2人は森へ引き返し、実際に木を観察しました。北のかしの木は大きく見えましたが、根元に刻まれた保護記録の日付を数えると、わずか50年ほど前のものでした。
近くで薪を割っていた木こりに声をかけると、こう教えてくれました。
「北のかしは、50年前の火事のあとに植え替えた二代目だよ。この森で一番古いのは、南の谷底にある樹齢300年を超える『大ブナ』さ」
門へ戻り、「南の大ブナです。北のかしは50年前の植え替えだと、現地の木こりさんに確認しました」と伝えると、門番は静かに微笑んで立ち上がりました。
「正解だ。データの一致に惑わされず、元を確かめたな」
重い鉄の扉が、ゆっくりと内側へ開きました。ソラは冷や汗を拭いながら呟きました。
「AIみんなが同じことを言っているときのほうが、実は一番あぶないんだね」
「そうね。答えを言っている数じゃなくて、元になっている情報源がいくつあるかが大切なのよ」