第11話ひっかかった話
3ぷん
みんなが 言っていたはずの話
ここに出てくる話は、ぜんぶ作ったお話です。だれかをうたがうためではなく、たしかめるためのページです。
ソラは、あるオンライン対戦ゲームをやっていません。
教室では、毎日そのゲームの話が出ます。動画配信者が紹介した技や、新しいキャラの話で大盛り上がりです。
「え、ソラやってないの? クラスのみんなやってるよ」
ソラは、自分だけが世界の流行から取り残されたような、寂しい気持ちになりました。家に帰ってから、リンに言いました。
「クラスのみんながやってるんだって。動画アプリでも、そのゲームばかり流れてくるし」
リンが、それを聞いて静かに言いました。
「みんなって、何人?」
「え……」
次の日、ソラがクラスの34人に聞いてみたら、どうだったと思う?
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実際に1人ずつ聞いてみると、やっていたのは34人のうち11人でした。3人に1人くらいです。そして、教室で毎日大きな声で話していたのは、そのうちの5人でした。
残りの23人は、やっていませんでした。ソラと同じように、「自分以外の全員がやってるのかな」と不安になっていた子もいたのです。
さらにリンが言いました。
「スマホや動画のおすすめ画面も同じよ。ソラが一度そのゲームの動画を見ると、アプリが『この人はこれが好きだ』と判断して、同じゲームの動画ばかりを画面に並べるの」
自分が見たものや、好きな情報ばかりで画面が埋め尽くされると、まるで世界じゅうがその話で持ちきりのように感じてしまいます。
「ぼくとリンって、同じアプリを開いても、ぜんぜん違うおすすめ画面を見てるんだね」
「そうよ。だから『みんなが言ってる』は、教室の大きな声や、画面の偏ったおすすめにすぎないこともあるの」
ソラは肩の荷が下りた気がしました。「みんな」という言葉に押されて決めるのをやめ、自分が本当にやりたいかどうかをゆっくり考えればいいのだと分かったからです。
毎日話す5人の声が大きいと、「クラス全員(34人)」のように錯覚します。「みんな」を実際に数えてみると、ぜんぜん違います。
この話に名前をつけるなら 少数の法則と性急な一般化事故記録アーカイブ 24
やってみて 友達や家族とスマホの動画アプリのおすすめ欄を見比べてみて。人によって画面がどれだけ違うか確かめよう。
詳細解説
「クラスのみんな」を実際に数える話です。34人のうちやっていたのは11人、教室で毎日話していたのは5人。発話量と人数の混同を数で見せ、後半で推薦による視界の個別化へつなぎます。
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背景と目的
「みんな」という語が量化子として機能せず、多くの場合可視性の高い少数を指していることの理解が目標です。34人中11人、そのうち教室で毎日話すのは5人、という数値で示します。
後半では、同じアプリでも利用者ごとに異なる出力が返ることに触れ、「みんな言っている」が観測者依存であることへ接続します。
組み立ての工夫
ソラに実際に聞いて回らせました。標本抽出を自分でやるという手続きが、しらべノート24(観察・実験・アンケート)と対になります。
結末で、ソラはそのゲームを始めていません。しかし「やらないと決めた」わけでもない。「みんな」に押されて決めるのをやめただけ、という書き方にしました。同調圧力への対処を、選択の内容ではなく決定の根拠の話に保つためです。
補足と注意点
孤立や仲間はずれの問題には踏みこんでいません。数の錯覚という認知の話に限定し、対人関係の悩みは大人につなぐ方針です。
持ち帰りの数は、本文で数えた5人に合わせてあります。挿絵も5人です。数えていない数を持ち帰りに書くと、この巻が扱っている失敗を、このページ自身がやることになります(2026-09-19 に3人から直しました)。