第4話ひっかかった話
3ぷん
気づいたら べつの話
ここに出てくる話は、ぜんぶ作ったお話です。だれかをうたがうためではなく、たしかめるためのページです。
ノートのいちばん上に、リンはこう書きました。
「自由研究の テーマを 決める」
そして、AIと話しはじめました。
はじめは、町のことを調べようという話でした。町といえば港だ、という話になりました。港には船が来る、という話になりました。船には種類がある、という話になりました。
AIは、質問するたびに面白い雑学やアイデアをたくさん返してくれます。
気づくと、外国の大きな貿易船の速さや、深海探査船の仕組みの話になっていました。画面には、かっこいい船のデータが何十行も並んでいます。
そこへ、ソラがやってきました。
「リン、自由研究のテーマ決まった?」
「えっ……と……」
リンは、ノートの上を見ました。「テーマを決める」と書いてあります。でも、画面に並んでいるのは、深海の魚の泳ぐスピードの話でした。
リンは、どうしてテーマが決まらなかったんだろう?
つづきを読む
リンは苦笑いしました。
「一歩ずつは面白くてためになる話だったのに、いつの間にかぜんぜん違う場所に来ちゃってた」
AIは、会話を続けるのがとても得意です。こちらが相槌を打つたびに、新しい話題をどんどん広げてくれます。でも、「そもそも何のために話していたか」という目的を管理するのは、人間の仕事です。AIに任せっぱなしにしていると、あっという間に時間が溶けてしまいます。
リンは、ノートのいちばん上の文字を指でトントンと叩きました。
「AIとチャットするときは、最初の目的を見失わないように、机の上にメモを貼っておかなきゃダメね」
2人は画面をスクロールして上に戻り、「町の港について調べる」という本来のテーマに立ち戻りました。
AIとの対話は楽しくてどんどん脱線します。「そもそも何のために聞いていたか」という最初の目的を紙に書いて、画面の横に置いておきましょう。
この話に名前をつけるなら 単一回答の盲信と多面的検証の欠如事故記録アーカイブ 15
やってみて AIと長く対話したあとで、いちばんはじめに聞きたかったことを、もう一度声に出して言ってみよう。
詳細解説
長い対話の中で、話題が初期の問いから徐々に離れていく話です。一歩ずつは連続しているのに全体としてはずれる文脈の累積的な変位を扱います。
くわしく読む
背景と目的
各ステップの妥当性と、全体の妥当性が別物である、という理解が目標です。言語モデルは直前の文脈に強く影響されるため、長い対話では初期の目的が実質的に失われることがあります。業務では、要件定義から逸れた設計論議として現れる現象です。
対処は初期の問いを対話の外に固定すること。本文では紙に書いて机上に置く、という物理的な方法にしました。
組み立ての工夫
逸れた先(世界でいちばん速い船)を、つまらない話題にしていません。むしろ面白い。面白さは逸脱の検出器にならないという点が要旨だからです。検出に使えるのは経過時間と、初期の1文との照合だけです。
町→港→船→速い船という連鎖を明示し、「一歩ずつ見ると、ずれていない」と書きました。局所的な整合性が大域的な逸脱を隠す、という構造の提示です。
補足と注意点
逸れた話題を切り捨てず「べつの日にした」としています。脱線の価値を否定せず、いま扱うかどうかの判断に還元しました。
ずれの経路を町→港→船→速い船と4段で明示しました。段数を書いておくと、読者が自分の対話に当てはめられます。経過時間(40分)も具体的に置いてあります。気づく手がかりは、内容ではなく時間と初期の1文だけです。