答えるAIは、図書館だけではありませんでした。公民館の玄関に1体、駅前のかどにも小さいのが1体います。町には性格のちがう3体の自律型AIが置かれているのです。
ソラが言いました。
「3体のAIに、おなじことを聞いてみない?」
リンが出した問いは、「この町ができたのは いつですか」でした。
図書館のAI「イチ」は、まよわずに答えました。
「1723年です」
公民館のAI「ミツ」は、こう答えました。
「江戸のころです。くわしい年は、いくつか説があります」
駅前の小さいAI「ゼロ」は、いちばん短く答えました。
「はっきりしたことは、わかりません」
ソラは、ベンチにすわりこみました。
「どれかが、こわれてるんじゃない?」
2人は、つぎに何をしたと思う?
つづきを読む
2人は、町のむかしの本をさがしました。司書さんが出してくれた古い本には、こう書いてありました。
町のはじまりについては、2つの記録が残っている。どちらが正しいかは、まだ分かっていない。
「ゼロが、合ってた」
「うん。でも」
リンは、そこで止まりました。
「でも、つぎもゼロが正しいとは、かぎらないよね」
3体のAIは、それぞれちがうプログラムで作られていました。最短で言い切るくせのあるイチ、データをたくさん並べるミツ、確実でないと止まるゼロ。くせがちがうだけで、どれかが絶対に正しいわけではありません。
ソラが聞きました。
「じゃあ、いつも3体に聞けばいいのかな」
「3つの答えがそろっても、安心はできないよ。3体のAIとも、元にしているデータ(情報源)がおなじ1さつかもしれない」
ソラは、ノートにこう書きました。
「答えがちがったところ。そこが、人間がしらべる場所。」
それから2人は、答えがばらばらだった日を、よろこぶようになりました。そろった日より、しらべる先が残っているからです。
同じことを聞いても、AIによって答えがちがいます。ちがったところが、人間が自分でしらべる場所です。
この話に名前をつけるなら 非決定性とモデル間応答の揺らぎ星間航海士の手引き 15
やってみて 同じことを、ちがう2つのツールや本で調べてみて。ちがったところに丸をつけてみよう。
詳細解説
同じ問いに3体が異なる答えを返す話です。生成の非決定性とモデル間の差を扱い、「答えの一致」ではなく不一致の位置を調査の起点にする、という転換を置きます。
くわしく読む
背景と目的
複数のAIに聞いて多数決を取る、という素朴な検証法を退けることが目標です。出力が近い訓練データ分布に由来する以上、一致は独立した裏づけになりません(相関した情報源の合意という古典的な誤り)。
かわりに、不一致は未確定領域の指標として使えるという積極的な読み方を渡します。調べ学習では、ここが最も生産的な使い方になります。
組み立ての工夫
3体の答えを「年を断定」「幅を持たせる」「分からないと言う」に描き分けたのは、実在の対話型AIに見られる応答傾向の差を下敷きにしているためです。製品名は出しません(良し悪しの評価にせず、製品が変わっても古くならないようにするためです)。
郷土資料が「2つの記録があり、どちらが正しいかは分かっていない」と書いている、という結末にしました。正解を1つ与えて閉じると、未確定を未確定のまま扱うという本題が消えるためです。結果として「わからないと言ったゼロが当たっていた。ただし次も当たるとは限らない」という、確率的な評価の形で閉じています。
補足と注意点
「ばらばらなら、どれも信用できない」という虚無に落ちないよう、本文では不一致を調べる場所の特定として肯定的に位置づけています。
結末は、説明ではなくふるまいの変化で閉じています。「3つに聞いて答えがそろった日より、ばらばらだった日のほうをよろこぶようになった」。ほかの11話も同じ形で閉じており、読者が持ち帰るのは理解ではなく動作だという方針によります。
教室で使うときは、実際に2つの対話型AIに同じ問いを入れて見くらべる活動にそのまま接続できます。答えが割れなかった場合も「割れなかった」という結果として扱ってください。