ソラは、部屋でとった写真を1まい、スマホのメッセージアプリでリンに送りました。新しく買った本を持って、ピースをしている写真です。リンがそれをSNSのグループに載せました。
その夜、ソラは思い直しました。なんとなく、はずかしくなったのです。
「さっきの、消しといて」
「うん、消した」
それで終わり――のはずでした。
1週間後、ちがうクラスの子が、ソラのところに来てこう言いました。
「ソラって、東小の子だよね?」
ソラは、その子と話したことがありません。学校の名前も、言った覚えがありません。
どこから、学校が分かったんだと思う?
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リンは、ちゃんと消していました。でも消す前に、グループの画面を保存した子がいたのです。その写真が別のSNSへまわってしまいました。
2人はもう一度、もとの写真を見ました。ソラは、まん中の自分しか見ていませんでした。けれど、写っているのは四角ぜんぶです。
うしろのかべに、時間割がはってありました。学校の名前が、いちばん上に印刷されています。まどの外には、町でいちばん高い建物が見えていました。
「これだけで、学校も、家の場所も分かっちゃう。写真のすみに、大切な個人情報が写ってたんだ」
「うん。ネットに一度載せた写真は、消しても完全に消しきれないことがあるのよ」
リンは、紙に四角をかいて、四すみに丸をつけました。
「ネットに出す前に、ここだけ見ればいいんだよ。まん中はもう見てるから」
それからソラは、ネットに写真を送る前に四すみを見るようになりました。名札、表札、時間割、うしろを通った人。慣れると、ほんとうに3びょうで終わります。
もう1つ、決めたことがあります。「いま、ここにいる」ではなく「行ってきた」で出す。これだけで、居場所を特定されずに済むのだそうです。
見ているのはまん中、写るのは四角ぜんぶ。ネットに載せる前に、個人情報がないか四すみを見る。そして、消しても消えきらないことがある。
この話に名前をつけるなら 画像メタデータと周辺環境の特定星間航海士の手引き 27
やってみて さいきんとった写真を1まい、四すみだけゆっくり見てみて。個人情報が写ってない?
詳細解説
削除したはずの写真が残る話です。背景に写りこんだ情報の合成と、一度手を離れたデータの不可逆性を扱います。対策を「送らない」ではなく「出す前に四すみを見る」という実行可能な動作に落としています。
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背景と目的
写真を被写体としてではなく矩形全体として見る、という視線の切りかえが目標です。時間割・表札・窓外の landmark といった単体では無害な要素が、組み合わせで所在を特定しうること(いわゆる背景情報からの位置推定)を理解できるようにします。
もう一点は、受信側の端末に渡った時点で発信者の統制が及ばなくなるという不可逆性です。
組み立ての工夫
削除が無効化された経路を「リンが消す前に、画面をのぞいた子がいた」と具体化しました。リンの不注意でも悪意でもない、だれも悪くないのに戻せない形にしてあります。信頼できる相手に送っても不可逆性は変わらない、という点が要旨だからです。
対策を「四すみを見る」に限定したのは、実行に3秒しかかからず、毎回できるからです。守れない規則(投稿しない)を置くより、継続可能な1動作のほうが効果が残ります。
補足と注意点
恐怖で止める書き方を避けています。「こわがらなくていいと思う」というリンの台詞を本文に残し、危険の指摘と対処をセットで提示しています。EXIFなど撮影機材の記録には、しらべノート27で触れます。