第10話ふしぎな話
3ぷん
かぎを ぜんぶ おなじにした家
町のはずれに、古い家が3けんならんでいます。同じ大工さんが、同じ年に建てたのだそうです。昔は町じゅうでお互いを信用していて、困ったときに助け合えるように、どの家も同じかぎにしたのだといいます。
2人が前を通りかかると、いちばん手前の家のおじいさんが、戸の前でこまっていました。かぎをなくしたのだといいます。
そこへ、となりの家の人が出てきて、こう言いました。
「うちのを使いなよ。同じだから」
そして本当に、となりの家のかぎで、おじいさんの家の戸が開きました。
ソラは、ぽかんとしました。
「…え、ぜんぶ同じかぎなの?」
「3けんとも同じだよ。便利でねえ」
たしかに、便利です。なくしても、となりで借りられます。でも、ソラはハッとしました。
「……ぼく、ゲームのパスワードも、タブレットのアカウントも、ぜんぶ同じパスワードにしてた!」
同じパスワードを使い回すと、どうしてあぶないんだろう?
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リンが言いました。
「1つのアプリからパスワードが漏れたら、他の大切なアカウントまで全部開けられちゃうよ」
2人は、家に帰ってからパスワードを見直しました。大事なアカウントと、遊びのアカウントは、べつのパスワードにする。
安全なパスワードの作り方も決めました。むずかしい記号をならべるのではなく、関係のないことばをいくつかつなげるのです。「あおいカバとえんぴつ3本」のように。長いほうが、人や機械には当てられにくくなります。それでいて、自分は思い出せます。名前や生まれた日は入れません。アカウントを狙う人が、まっ先に試すからです。
ぜんぶ覚えるのは大変なので、紙に書いて、家の人と決めた場所にしまうことにしました。パスワードを紙に書いて鍵のかかる場所にしまうのは、じつはとても安全な方法なのです。
同じパスワードを使い回すと、1つばれたら全部のアカウントが開いてしまう。大事なアカウントと遊びのアカウントは、べつのパスワードにする。
この話に名前をつけるなら 認証方式と多要素セキュリティ星間航海士の手引き 26
やってみて パスワードそのものは書かずに、使っているアプリやゲームの名前だけを紙にならべて、同じパスワードを使っているところに印をつけてみよう。
詳細解説
3軒が同じ鍵を共有している家の話です。パスワードの使い回しが、1件の漏洩を全アカウントの侵害に変換するという構造(リスト型攻撃の前提)を、物理的な鍵に置きかえて扱います。
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背景と目的
「1本で全部開く=1本ばれたら全部開く」という同値変形を、自分で言えるようにすることが目標です。利便性と安全性が同じ性質の表裏であることを、抽象的な注意ではなく論理の言いかえとして渡します。
作り方としては、記号の複雑さより長さが効くこと(エントロピーは長さに対して指数的に増える)を、「あおいカバとえんぴつ3本」という具体例で示します。
組み立ての工夫
登場人物を被害者にしていません。おじいさんも隣人も善意で、便利だから共有している。攻撃者を登場させずに脆弱性だけを示す構成です。悪人が出てくると、話が「悪人に気をつける」へずれます。
紙に書いて保管する方法を肯定しました。記憶に依存する運用は使い回しを誘発します。専門家の間でも、物理的な保管は現実的な選択肢とされています。
補足と注意点
本文に「パスワード」という語は出しません(かぎことば)。名前はしらべノート26にあります。多要素認証には触れていません。導入判断が家庭ごとに異なるためです。