ソラは、自由研究で港のことを調べていました。集めた紙が、つくえの上で山になっています。
「これ、AIにやってもらえないかな」
「やってもらうって、どこまで?」
2人は、山になった紙を持って図書館へ行きました。AIは、話を聞いてからこう言いました。
「わけて考えましょう。わたしが得意なことと、苦手なことがあります」
AIは、得意なことを3つあげました。ならべかえること。みじかく要約すること。2つのデータをならべてくらべること。
「じゃあ、苦手なのは?」
「数を数えることです」
ソラは、えっ、という顔をしました。
「そんなの、いちばんかんたんじゃない?」
リンが、1まいの紙を読み上げてから聞きました。
「この中に『港』ということばは、何回出てきますか」
「7回です」
2人で、えんぴつで印をつけながら数えました。5回でした。
ソラは、まず何をたのんだと思う?
つづきを読む
ソラは、紙をAIの前に置きました。
「これ、みじかく要約して。3行で」
AIは、すぐに3行にまとめました。読んでみると、たしかにそう書いてありました。
「じゃあ、どの店がいちばんおいしいかは?」
「それは、わたしには決められません」
「食べたことがないから?」
「それもあります。でも、もっと大きいのは、おいしいかどうかは、あなたが決めることだからです」
ソラは、しばらくだまってから言いました。
「したじゅんびは、AIにたのんでいい。決めるのは、こっち」
「そういうこと」
その日から、ソラは紙の山を2つに分けるようになりました。AIに頼む山と、自分でやる山です。船の数は、じっさいに港へ行って数えました。11そうでした。
詳細解説
生成AIに何を委譲し、何を委譲しないかの線を引く話です。整形・要約・比較は委譲でき、計数と価値判断は委譲できない。この非対称が、トークン処理という同じ機構から出ていることを扱います。
くわしく読む
背景と目的
タスクを「したじゅんび(前処理)」と「決定」に分類し、前者だけを委譲する習慣をつくることが目標です。これは業務でいうヒューマン・イン・ザ・ループの最小形で、調べ学習でそのまま使えます。
あわせて、言語モデルが計数を苦手とする理由(文字列を記号単位で処理しており、逐次的な数え上げの機構を持たない)を、実測との食い違いという形で体験します。
組み立ての工夫
「7回」と答えさせ、鉛筆で数えたら5回だった、という順にしています。先に苦手だと説明してから実演するのではなく、読者が反証を自分の手で得る順に組みました。第4話で扱う「答えのばらつき」も同じ形式です。
「どの店がいちばんおいしいか」を委譲できない理由を、能力の不足(食べたことがない)ではなく決定権の所在(おいしいかは、あなたが決めること)に置いています。ここは第12話の「決める席」へ直結します。
補足と注意点
「AIは計算が苦手」と一般化すると誤りです。外部ツールを呼べる構成なら計算は正確になります。本文は道具の内部構造ではなく、手もとの道具でいま何が起きたかだけを扱っています。