この診断の使い方

自社が罠にはまりやすい状態にないかを、3つの軸で測る自己診断である。各項目に「はい」で答えられるかを判定し、軸ごとの点数から状態を見る。

ここで測るのは個人の判断力ではなく組織の構造である。本書で繰り返し示したとおり、報告と実態のずれや検証の省略は、多くの場合悪意ではなく仕組みの不在から生じる。したがって改善の対象も仕組みである。

表の網羅版 第28章「AI活用成熟度 自己診断」はAI活用の成熟度を4軸で測るものであり、本章はそれと補完的な関係にある。両方を実施すると、「活用が進んでいるが検証の仕組みが弱い」といった偏りが見える。

軸1. 情報の非対称性への耐性

報告と実態がずれる構造があるかを見る。第8章・第15章・第23章と連動する。

軸2. 契約・調達リテラシー

外部との取引で確認が抜けない仕組みがあるかを見る。第3章・第6章・第10章・第17章と連動する。

軸3. 検証体制

効果と品質を数字で確認する仕組みがあるかを見る。第9章・第14章・第20章・第24章と連動する。

集計

軸ごとに「はい」の数を数え、下の表に書き込む。印刷して使う場合はこの欄に記入する。

軸別の集計欄
軸項目数「はい」の数割合
1. 情報の非対称性への耐性10    / 10    %
2. 契約・調達リテラシー12    / 12    %
3. 検証体制13    / 13    %
合計35    / 35    %

レベルの目安と次のアクション

合計の割合から状態を判定する。ただし合計より、最も低い軸を見ることが重要である。

レベル別の状態と次のアクション
レベル目安典型的な状態次のアクション
レベル1
個人依存
25%未満確認の質と量が担当者ごとに大きく違う。誰が担当するかで結果が変わる「最初の5問」(第27章)を提案・報告の場で使う運用にする。報告書式に「対象範囲」の欄を1つ追加する。この2つで多くの型が防げる
レベル2
部分的な仕組み
25〜50%一部の確認は定型化されているが、抜ける領域がある。とくに稼働後が弱い着手前に「導入前の数値の実測」と「中止条件の文書化」を必須にする。どちらも着手前にしか実行できない
レベル3
仕組みが機能
50〜75%確認が定型化され、記録が残っている。数字で議論できる検証セットの定期実行と、人による修正割合の月次確認を追加する。稼働後の運用担当を明示する
レベル4
継続的に改善
75%以上確認・記録・見直しが回っている。失敗事例が共有され次に反映される中核組織が共通の仕組み(選定基準の雛型・契約確認の定型・検証セットの管理)を提供し、各部署の負荷を下げる

軸ごとの読み方

低い軸ごとの症状と最初に打つ手
低い軸現れる症状最初に打つ手
情報の非対称性への耐性報告と実態がずれる。利用率の低下が「慣れの問題」として処理される。中止が遅れる報告書式に「対象範囲」の欄を追加。現場が直接説明する機会を月1回作る(第8・15章)
契約・調達リテラシー着手後に追加費用が発生する。移行できない。データの扱いが想定と違う選定基準を提案前に作る。データの取り扱い6項目を確認する定型を作る(第17章)
検証体制効果を示せない。品質の劣化に気づけない。PoCが繰り返される導入前の数値の実測と中止条件の文書化。次に検証セットの作成(第9・14章)

診断結果を何に使うか

次の3つの場面で使うことを想定している。

  1. 現状の共有 ― 経営層と現場が同じ項目を見て判定すると、認識のずれが具体的に現れる。同じ35項目に対して立場の違う人が別の判定をした場合、その差が組織内の情報の非対称性を示している。
  2. 改善の順序決め ― 最も低い軸に対する施策を優先する。3つの軸は相互に依存しており、検証体制だけを強化しても報告の構造が変わらなければ数字が届かない。
  3. 定期的な確認 ― 半年または1年ごとに再診断し、変化を見る。項目が固定されているため比較ができる。

1番目の使い方が最も実用的である。この診断は点数を競うものではなく、どこに仕組みがないかを特定するためのものである。