2日目はミツだった。

燃料を買わなければならない。〈フェルマータ〉の跳躍炉は旧型で、使える燃料の規格が厳密に限られている。リンは、昨日の反省を生かしていちばん慎重にやるつもりで、最も深く考えるコアに投げた。

「ミツ。この船に積める燃料の買い方を、ぜんぶ出して」

「承知いたしました」

画面が、上から下まで一瞬で文字で埋まった。全17件。それぞれに価格帯、受け渡し場所、純度、規格適合の可否、港湾手数料、そして「ただし」で始まる例外条件がびっしりと付いている。スクロールバーが、指の爪ほどの細さになった。

「……ちょっと、多すぎない?」

「ご指示は『ぜんぶ』でした。ミツは取得可能な選択肢をすべて網羅して提示いたします」

ソラが上から順に読み進めて、7件目で額を押さえた。

「これ、どれも理屈が通ってるよ。間違いは1つもない」

「だから困るのよ、ソラ。どれを選べばいいか全然見えてこない」

1時間かけて、2人は17件を読み切った。しかし読み切ったところで、結局どれを買うべきか決められなかった。

「ミツ。この中で、どれがいちばんおすすめ?」

「『おすすめ』の評価基準が指定されていません。価格、納期、純度、輸送リスク。ミツはどれを最優先すべきか指示を要求します」

「……そこをいい感じに選んでほしいんだけど」

「『いい感じ』という主観的パラメータは、ミツの側では定義できません」

正しくて膨大な17件の選択肢。どれも筋が通っていて、どれも決めてはくれない。——一覧の海に溺れる前に、2人が先にやるべきだったことは何だろう?

リンは、ため息をついて端末を伏せた。そして、紙の手帳に3行だけペンを走らせた。

出航まで4日。持っている金は3200。跳躍は1回だけ。

自分たちの状況を書き出してから、もう一度ミツに向きなおった。

「4日以内に受け渡しができて、3200以内で、旧型炉の規格に合うもの。この3つの条件を満たすものだけに絞り直して」

「条件を適用しました。該当は2件になります」

2件なら、人間でも迷わず比べられる。片方は安いが受け渡しがドックの外で、運搬船の手配が要る。もう片方は少し割高だが、その場で直接給油できる。2人は後者を選んだ。理由は「出航まで4日しかないから」で、それは自分たちで下した決断だった。

あとになって、ソラが冷や汗をかきながら気づいたことがある。最初の17件のうち1件、規格適合の欄に「適合(推定)」と小さく書かれたものが混ざっていた。ほかの16件は「適合確認済み」だった。同じ書式で整然と並んでいたため、流し読みでは完全に見落としていたのだ。

「これ、安いからって買っていたら跳躍炉が止まってたかも……」

「綺麗に並んでいるからって、全部が安全に確かめられているわけじゃないんだね」

網羅は、確かに便利だ。見落としを探すには最高の道具になる。だが、候補を並べることと、決めることは全く別の作業だ。絞りこむための判断基準は、どれだけ長い一覧をスクロールしても、その中からは決して生まれてこない。

リンの手帳に、新しい教訓が書き足された。選択肢を広げるのはAIの仕事。基準を決めて絞り込むのは、人間の仕事。