7日目に、2人は植民地の行政区へ向かった。調査船として登録した以上、この星の基礎的な環境データを本星へ持ち帰る公的な義務がある。

環境保全課の職員は、要約された1枚の報告書を差し出してきた。最上部に、ひときわ太い文字で数字が印刷されていた。

大気安全率 94%

「94パーセントなら、だいたい安全って受け取っていいんですか?」

「ええ、その通りです。植民地基準を十分に満たしていますよ」

リンは、その要約用紙をじっと睨みつけていた。それから静かに問いかけた。

「この数字、何を何で割って計算したんですか?」

職員が怪訝そうに顔を上げた。

「……と、言いますと?」

「94パーセントという割合である以上、必ず分子と分母がありますよね。その実数を知りたいんです」

職員は奥の書架から分厚い生データのバインダーを持ってきて、10分ほど指を走らせた。それから、少し言い淀みながら答えた。

「観測点24か所のうち、22か所が年間を通じて基準内でした」

ソラが端末で計算する。22を24で割ると、91.66……パーセントになる。

「大気安全率 94%」。堂々と印刷された数字を前に、リンが真っ先に「分子と分母」を尋ねたのはなぜだろう?

数字の計算が合わないので、2人は粘り強く元データを追跡した。分かったことは3点あった。

1点目。観測点は本来24か所ではなく、全部で26か所あった。うち2か所は5年前から機器が故障しており、行政の計算から勝手に除外されていた。22を全観測点の26で割れば、安全性は84.6パーセントにまで跳落する。

2点目。「基準内」とされていた基準値自体が、この星が独自に緩めたローカル規定だった。恒星間共通の安全基準にあてはめると、基準内と呼べるのは17か所(65.3パーセント)に激減する。

そして3点目。そもそも94という数字は、観測地点の割合ですらなかった。職員が台帳を精査してようやく判明した。測定の総回数で母数を取った数字だったのだ。年間1200回の測定サンプルのうち、1128回が基準内。これを割ると、ぴったり94.0パーセントになる。

「地点数じゃなくて、回数で割ると、すごくクリーンな数字に化けるんだね」

「そう。空気の悪い問題の2か所は、冬の数日間しか測っていないから、サンプル数が少なくて全体を薄められたのよ」

船に戻って、3体のコアにもその行政要約用紙を読み取らせた。

「イチ。この星の空気、どれくらい安全?」

「94パーセントが基準内です、とイチは報告します」

「何の94パーセント?」

「……資料の記載数値をそのまま復唱しました。分母の定義は文書内に存在しません」

「分母が書いてないなら、最初から『分母不明』って注釈をつけてよ」

「自発的に疑義を挟むようには設計されていません」

ミツは最初から3通りの分母候補を並べ立てていた。そしてゼロは、資料を読み込ませた瞬間から「不明」とだけ呟いて沈黙を守っていた。

「ゼロ。きみ、こういうとき何を見て黙るの?」

「割り算の分母が明記されていないときです」

「それだけで判断を止めるの?」

「ゼロの基準では、それで十分です」

行政の職員が悪意で騙そうとしたわけではなかった。前任者が作った見栄えの良い書式を、意味も分からず前例踏襲で使い続けていただけだった。

「割合って、分母の取り方を変えるだけで、まったく別人の顔になるんだね」

「平均値もそうよ。何を足して何で割ったのかを隠せば、どんな嘘でも数字で正当化できるの」

リンは、持ち帰る正式報告書に「94%」という単一の数字を書かないことにした。代わりに3つの数字を並記した。全観測点基準で84.6%。稼働観測点基準で91.7%。年間総サンプル回数基準で94.0%。どれも嘘ではない。3つの異なる分母を並べて初めて、この星の空気の立体的な真実が立ち上がる。