ハーバー・ナイン第14廃船ドックは、いつも同じ温度に保たれている。金属がゆがまない温度、という意味であって、人間のためではない。リンは襟を立てて、目の前の船体を見上げた。
調査船〈フェルマータ〉。全長64メートル。船齢41年。査定額がつかなかったので、譲渡というかたちで2人のところへ回ってきた。
「これ、本当に動くのかな」
「動く、とは書いてあるよ」
ソラが帽子のつばを上げて、引きつぎ書類をめくった。最後のページに、赤い判が1つ押してある。三声規約 適合。
「判断支援AIは、性格のちがう3体ひと組でしか積めない。1体でも降ろしたら、出航許可が下りないんだよね」
「めんどくさい決まりだね。ぼくたち、ただの点検に来ただけなのに」
「26年前からね」
船倉に入って電源を入れると、天井の近くで3つの筐体がほとんど同時に明かりをともした。六角形の、手のひら2つぶんくらいの箱が3つ。浮かんでいるのではなく、天井のレールにぶら下がっているだけだった。
リンは、いちばん最初に浮かんだ問いを、そのまま声に出した。
「この船、あと何年もつ?」
答えは、3つ返ってきた。
「外殻の損耗限界から逆算して、11年です」
「条件によります。外殻を交換しないなら4年、交換するなら14年、跳躍炉を積み替えれば20年以上。ただし外殻の交換は港の受け入れ枠しだいで、直近3年の枠は——」
「不明です」
ソラが天井を見上げたまま言った。
「……1体、壊れてるんじゃない?」
同じ問いに、3つまったく違う答えが返ってきた。多数決を取るか、言い切っている1つを信じるか。——ここで2人は、どこを見るべきだろう?
リンは端末を出して、3つの答えをそのまま書き写した。そして、共通しているところに線を引いた。
共通していたのは、外殻という語だった。11年と言い切った声も、4年から20年と並べた声も、そこを見ている。何も言わなかった声だけが、そこにも触れていない。
「見にいこう、ソラ」
2人は外殻の点検口を開けた。内側の板は、指でなでると粉が落ちるくらいまで腐っていた。そして保守記録を引き出すと、直近7年分がまるごと欠けていた。
「……ああ。だから『不明』なんだ。ぼく、てっきり故障かと思ったよ」
「記録が無いところを、そのまま無いと言ったのね」
天井の3つが、そこではじめて順番に名のった。
「三声型判断支援コア、第2世代。イチです。イチは、候補をいくつ作っても、最後に1つだけ出します。速いです。迷いません」
「ミツです。ミツは、条件と例外をできるかぎり並べます。長いです。読み切るのに時間がかかります」
「ゼロです。答えを出さないことがあります。短いです」
ソラが、思わず笑ってしまった。
「自己紹介が、全部そのまま自分の弱点になってるよ」
「規約でそう決まっています、とミツは申告します。ミツたちは、まずそれぞれの癖を申告してから運用に入ります。理由は、26年前のケレス環にあります」
リンは、その名前を手帳のいちばん上に書いた。それから、その下にもう1行書き足した。
3つそろったときではなく、3つ割れたときに、この船は役に立つ。